どーも!概念蒸気研究家のhiroです!
みなさんは「概念蒸気」というジャンルをご存知ですか?
これは公式な名前ではなく、日本の「蒸気の時代」愛好家の中での通称です。蒸気のようであって蒸気ではない、つまり、通常線路タイルを敷くことがメインの蒸気の時代の拡張マップのうち、「線路タイルを敷設しない」蒸気の時代のことを指すことが多いです。英語では、「へクスがない」という意味の「Hexless」が一番よく使用され、概念という言葉を使う場合は「Conceptual Age of Steam」その他「蒸気のようなもの」という意味で「Age of Steam-like」「Age of Steam-ish」などとも言えるそうです。
「概念で蒸気を遊ぶ」という、あたかも哲学のようなこの響き、とてもカッコイイですよね。言い方もさることながら、概念蒸気そのもののプレイ感も独特で、概念蒸気のみをプレイしていたら1ヶ月経っていた、なんてこともありました。とにかく!概念蒸気とは、ニッチなジャンルではありますが、とても面白いものなのです!
以前「概念蒸気の論文を書く!」と息巻き、多種多様な概念蒸気の研究に着手したところ、研究をすればするほどその道は奥深く、体系化・文章化してまとめあげるのがむずかしくなり中断していました。そこで、一度原点に立ち戻り、概念蒸気のマップをひとつひとつ楽しく紹介する記事を書こう!と思い立ち、本記事の執筆・公開に至りました。
概念蒸気は、蒸気の時代の中でもさらに複雑なカテゴリーになると思いますが、各マップの説明で後述する「位置どりのシビアさ」が際立っていたり、蒸気の中でもさらに個性的なルールを楽しんだり、といった、味わいがあるジャンルです。蒸気の時代をプレイしたことがある人は、さらに蒸気の奥深さを知ることのできる、オススメのジャンルです。
それでは早速、概念蒸気の紹介、いきまーす!!
- 太陽系(Solar System)
- オールド・ヨーロッパ(Old Europe)
- ニューヨーク地下鉄(New York Subway)
- ハワイ諸島(Hawaiian Islands)
- パリ(Paris)
- シナプス(Synapses)
- ハロウィーン(Halloween)
- クリスマス・ヴィレッジ(Christmas Village)
- ネザーランド(The Netherlands)
- 51番目の州(51st State / USA)
- キクラデス諸島(Cyclades Islands)
- 渋谷ナイトアウト(Shibuya Night Out)
- ゴジラ(Godzilla)
- 概念蒸気の概念度チャート
- 蒸気初級者に勧める概念蒸気マップは?
- 最後に
太陽系(Solar System)
所有権:惑星間のリンク
太陽系マップ!宇宙に飛び出してしまった蒸気の時代。ラウンド終わりに公転が起き、都市色が入れ替わる。一見ぶっ飛びルールだが、リンク張りは比較的自由自在で応用が効く、計画性が無くてもそんなに地獄にならないセミ闇・概念蒸気。
オールド・ヨーロッパ(Old Europe)
所有権:国境上にある境界線
プレイ後の写真はディスクが散らばってるようにしか見えない、古きヨーロッパが舞台の概念蒸気。収入増の対象となるのはリンク接続本数ではなく、「経由した大円」と「色付き都市数」で決まるという、トリッキーすぎる商品輸送の考え方を適応しなければならない。なお、このマップでは、中間の国を都市化することでリンク数を増加させることができるが、ターン順1位のプレイヤーは大円にはディスクを置けないため、高リンクを自らのネットワークで作れないのである!通常かなりアドバンテージのある「ターン順1位」の人の敷設能力が弱くなっている。この変更ルールには思わず唸ってしまった。
このマップに見られる「商品輸送リンクの数え方」が異なる点。概念蒸気は、線路を敷かないという特徴に加え、各々のマップで「商品輸送リンクの数え方」が異なる。それが概念蒸気同士を特徴づける方法の一つでもあると気付かせてくれた、素晴らしいマップ。
ニューヨーク地下鉄(New York Subway)
特徴:各都市(駅)は仮想上で繋がっている
所有権:都市の隣接へクスの各辺
筆者が以前住んでいた、ニューヨークの地下鉄が舞台のマップ。ヘクスがあるので一見概念蒸気には見えないが、へクスには線路を敷かず、裏返して黒くして使うという超変化球の概念蒸気!キューブとディスクが逆転(写真はオンライン遠隔プレイなので利便状そのまま使用)し、高層ビルの1番上のディスクしか運べないという商品輸送の制限。トンネル内は仮想で全て接続されているので、自由度が高い。先を見越した長期的な輸送計画を立てていないと、リンクを所有している他プレイヤーに簡単に商品を奪われてしまう。
なお余談として、デザイナーAlban自らセルフリメイクし、2022年マップセットの中に本マップの新版が含まれている!だが、遊べない人が多発している。その理由とは、裏返しても黒いタイルにならない「DX版」がリリースされ何年も経った後のリリースにも関わらず、ルールには依然「裏返して黒面を使用する」と記載があり、両面印刷のDXタイル・クリアタイルのみを持っている人は遊べない仕様となっている。蒸気界隈では「Alban is.... Alban.」(これだからアルバンは。。)と言われている(笑)
ハワイ諸島(Hawaiian Islands)
特徴:ソロパズル
所有権:島間のリンク
ハワイ諸島が舞台の概念蒸気ソロマップ。商品輸送時に、通過海路にある同色キューブを除去できる。10Rで全部除去したら勝ち!難易度1番下なのに2個残りで失敗…!アルバン氏のソロマップは初プレイだと大体うまくいかないので、リプレイ大前提な設計という所が素晴らしい。
パリ(Paris)
所有権:都市間のディスク
特別アクションに、フライボートというアクションが追加、海岸から海岸へ収入増ありで運べる。都市色が変わらない部分や簡素になった部分を除き、ネザーランドマップのプレイ感に非常に似ている。このことから、日本の愛好家の間では「ジェネリック・ネザーランドマップ」と呼ばれている。ネザーランドの質素でストイックな感じか、こちらのカラフルでフレンドリーなパリマップを選ぶかは、お好みだ。
シナプス(Synapses)
所有権:ニューロン(都市)上のディスク
まさかの「シナプス」がテーマのマップ。複雑さや考え方の奇抜さでいうと「概念蒸気の王者」にふさわしいこのシナプス。都市の色が薄くて視認性がゼロ、ニューロンを繋ぐというテーマが激ヤバ。このマップの一番大きな特徴は、経路(シナプス)が同じでなければ同じニューロン(都市)は何度も経由できるという、通常の蒸気では全く許可されていない動きが許容されている点。概念蒸気である上に、イレギュラーなルールがこれでもかというほど詰め合わされている大ボス拡張。脳内の全てのシナプスを総動員して遊ぶこと必須のマップだ。
ハロウィーン(Halloween)
所有権:リンク上のカボチャ
Alban氏の2021年概念ソロマップ!オレンジのかぼちゃキューブが付属していて、魔女(黒)と一緒に運ぶ、ライン作りが大事なマップ。複数を同時に運んだり、途中の都市にキューブを落としていくという発想がすごい。難易度優しいやつでギリクリア、激ムズモードはクリア不可能説あり。
クリスマス・ヴィレッジ(Christmas Village)
所有権:リンク上のアイコン
ソロパズル!各家の子供たちにプレゼントを運ばないと、サンタ業をクビになってしまう。ルールを読んだ時、アルバン氏にしては簡単…と思いきやクリアぎりぎり。なんだこの完璧な難易度調整は?と思わされる調整である。アルバン氏はたくさんのソロパズルをリリースしていることもあり、蒸気の上級プレイヤーであっても難しく感じるような難易度調整がうまい。
ネザーランド(The Netherlands)
所有権:へクス間の境界線
「これは蒸気なのか?展」上位にノミネートされるネザーランド。当時、初の概念蒸気として遊び、衝撃を受けたことが記憶に新しい。よく見てください、都市に色がないんです。その代わり奥にもう一枚ミニマップが置いてあり、そこで色をコントロールする。全都市の色が可変です…狂っている!概念蒸気であるにも関わらず、なんと線路タイルを敷くゾーンも用意されているという、ハーフ概念蒸気。超変則マップ。
51番目の州(51st State / USA)
所有権:州間の境界線
邦題は51番目の州、アメリカ各地を旅する概念蒸気!写真のプレイ時はアヒルのプレイ駒を使用したためとても和やかな雰囲気になっているが、このマップも一筋縄ではいかない、難しい概念蒸気となっている。先ほど紹介したオールドヨーロッパマップ同様に、接続ディスク数ではなく経由した「番号付きの都市」+「空港数」でリンク数が変わるため、いつもよりシビアな計画能力が要される。都市化によるリンク増で計画が大きく変わる。ベテラン蒸気er達も悲鳴を上げる、世にも奇妙な概念蒸気。オールドヨーロッパ同様、こちらもルールが奇抜すぎてBGG上でもあまり遊ばれておらず、曖昧なルールをプレイヤー間で事前に明確化して取り決めておくことが求められる。
キクラデス諸島(Cyclades Islands)
特徴:四角に区切られたマップ区域
所有権:境界線上または交点
キクラデス諸島で繰り広げる。海に浮かぶ島のテーマに、アヒル駒がピッタリ!「境界線」またはグリッドの「交点」にプレイヤーコマを配置する、概念蒸気の中でも珍しいディスクの配置形式を採用している。「経由した島数」がリンク数となっていて輸送計画がしやすいが、特別アクションである「風向き変更アクション」がやっかいだ。このアクション一つで東西南北いずれか1つの方向が輸送時に禁止されるため、個人への攻撃でなく全体攻撃となってしまう。というのも、このアクションを取得するプレイヤーが、一つの方向を使わないようなルート構築をしておき、全体に影響を与える方向を禁止し続ける、という構図がなりたつので、ルート構築には注意したい。
渋谷ナイトアウト(Shibuya Night Out)
こちらはインディーズマップ。渋谷の街にいる若者をクラブに連れていく、へクスのない概念蒸気です。毎ラウンド音楽のトレンドが変わり、トレンドに乗れたら収入+1。インディーズマップとしてへクスのない蒸気が存在しなかったので、思い入れのある土地でまた作ってみました。プリントアンドプレイ形式で無料公開していますが、黒インクを大量に使うので、印刷会社にポスター印刷を頼むのがオススメです。ハードルが少し高いですが、それでも遊んでもらえると作者冥利につきます!!
蒸気の時代:渋谷ナイトアウト
— hiro@ボドゲイム (@bodogeimu) June 26, 2022
Age of Steam: Shibuya Night Out
拡張マップ第2弾を作成しました。渋谷の街に集う若者をタクシーに乗せ、流行のクラブまで運びましょう!2-4人用、線路を敷かない概念蒸気です。このマップに合わせmix音源も制作したので、是非聴いて下さい💥https://t.co/62JiRqswww pic.twitter.com/28SVt0UYPR
ゴジラ(Godzilla)
こちらもインディーズマップ。へクスがあるのに、へクス間にディスクを置いて接続を示す、まさかの概念蒸気です。ルールは映画のネタバレになってしまうため詳しくは書けませんが、ゴジラが襲う首都圏を舞台に、人間を避難させるルールとなっています。余談ですが、ゴジラ人形をこの日のためにペイントしたゴジラ人形を忘れ、急遽そこにあったロック様人形(プロレスラー)で代用するというハプニングがありました(笑)
概念蒸気の概念度チャート
こんな感じで、この世の中には様々な概念蒸気が存在し、それぞれ特徴があることを紹介しました。それを踏まえ、筆者が概念度別に分類した結果はこちらになります。
「概念蒸気の概念度」は、語句「概念」が元々持つ意味が邪魔をして少し捉えにくいので、Complexity(複雑さ:ルールの難易度)と、Deviation(偏差:標準ルールとどれほど異なるか)の2要素に分解してマッピングしてみました。左右の軸:偏差は、左に行けば行くほど標準ルールに近く、右に行けば行くほど標準と偏差がある、オリジナリティがあるプレイ感です。上下の軸:複雑さは、ルール自体の複雑さで、ルール量に比例します。
概念蒸気を概念蒸気たらしめている要素が、この2要素だと仮定します。線路を敷設するという概念を超え、さらに複雑さを増し増しにしているものが超・概念蒸気なわけです。
この仮定に準ずるとするならば、概念蒸気の王者に君臨するのは、両者が共に高い「シナプス」マップだと言えます。
なんだか、概念という言葉を使いすぎてゲシュタルト崩壊してきました。ここで少し冷静になって原点に戻り、概念蒸気を楽しく紹介するマインドに戻ります。
蒸気初級者に勧める概念蒸気マップは?
蒸気の時代を遊び始めて間もないプレイヤーに「どの概念蒸気マップを勧めるか?」と聞かれた場合、「渋谷ナイトアウト」または「パリ」と回答するかなと思います。渋谷に関しては、(色ボーナスがあるため)収入が上がりやすく脱落しにくい通称「アッパーマップ」であることと、リンクにディスクを載せていく方式のため、リンクが可視化され遊びやすいマップであるのが理由です。パリに関しては、セクション間にディスクを置く方式はいわゆるベーシック概念蒸気ですが、区分けされたセクション数が少なく、集中して概念蒸気の妙を楽しめるマップになっています。また、概念蒸気の中ではルール量が一番少なく、とてもシンプルでわかりやすいマップだと思います(前述の概念度チャートでも、渋谷と共に左上に位置します)。さらに、アートワークも美しいため、新しく蒸気を遊んでみる方にも、魅力的に写るのではないかなと思います!
最後に
へクスのない「概念蒸気」ジャンルのマップを紹介しましたが、いかがでしたか?とても楽しそうですよね!?「線路を敷設する」という、蒸気の時代のコア部分を無くし、ソリッドにしたマップ。それでも、蒸気の時代を遊んでいる感覚は十分に味わえる。もしこのブログを読んで概念蒸気が少しでも身近な存在になれば、嬉しいです。
おまけ
以前始めたラジオ「hiroステ」というボードゲームラジオ過去回の第6回で、ゲストをお呼びしてこの概念蒸気について話しています。当時は「概念度」の概念がなくただ楽しそうに各マップを紹介していますが、カジュアルで聞きやすい会話形式なので興味のある方はぜひ聴いてみてください!
#ボードゲームラジオ
— ボドゲイムhiro🔜AoSCON/Spiel22/ゲムマ秋 (@bodogeimu) September 21, 2022
第6回を公開しました🎧
蒸気といえば線路を敷くイメージですが、線路を敷かない「概念蒸気」ジャンルがあります。ゲスト2人+新たにこうりゅう氏をお呼びし、マップ11種紹介と、各自ベストマップを話しました。#hiroステ
#6 蒸気の時代 概念蒸気マップ https://t.co/DfbO26rfwx
先週参加したゲームマーケット2023春で、蒸気の時代のマップセットを作って販売しました!
それぞれとてもユニークな個性を持ったマップになったと思います。変わり種の蒸気をお探しの皆様にぜひ試してもらいたいマップです。
近況:テストプレイ中の「インヴァース」です。こちらもヘクスが描かれていますが、点線にディスクを載せる概念蒸気です。概念蒸気である点に加え、どんどん線路が破壊されていく「逆説蒸気」のため、インヴァースと名付けました。賛否両論ありますが、かなりユニークになっているとは思っています。概念蒸気は相当勇気がないと商用マップとして販売はできないと思っていますが、発表方法を考えて形にしたいところです。
来週より、しばらくアメリカに旅に出ます。蒸気の時代イベントに参加するのがメインの目的なので、またブログでレポートできたらと思います。
それでは!
ボドゲイムhiro (@bodogeimu) | Twitter
Twitterでは所属サークルのゲーム紹介の他、日々遊んだゲームについてツイートしています。
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